論文紹介「活動から教科を学ぶABSL(Activity Based Subject Learning)の提案」(2019)福本・高橋・中邑

教育を語る文脈の中で、「アクティブラーニング」や「PBL(Project Based Learning/Problem Based Learning)」という言葉が、最近よく聞かれます。

共に、ただ知識を身に着けるのではなく、知識を能動的に活用していくことを目指す学習方略ですが、ここに新たに、ABSLという学習方略を提唱するのが、本論文です。

ABSLについて、著者らは以下のように述べています。

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現在の日本の教育現場で行われている教育は、教科の学習内容を1つ1つ獲得していくことを目指す、「基礎から積み上げていく学び」だと言えます。この学びの中では今自分が学んでいる教科内容が実際に何に役立つのかが見えにくいために学習の動機付けが弱まってしまうだけでなく、全員同じペースで学ぶことを良しとすることで構造的に「ふきこぼれ」や「落ちこぼれ」てしまう子どもを生み出してしまいます。

そうではなく、日常生活と繋がる活動、例えば「真っ白な小麦粉を100g作る」や「身の回りに潜むセンサーを探す」などの活動から学習をスタートし、その活動に紐づくさまざまな教科内容を、教科の壁も学年の壁も超えて縦横無尽に学んでいく。それも、時間や場所や教科書といった制約を取っ払って。ABSLは、そんな学びの形です。 

 

ABSLは、現実社会で日常的に起こっている現象と教科活動を結び付けていくことで実現する学びの形です。カリキュラムに精通している現場の教員こそ、これができる方々であり、現場の教員にABSLの考え方、方法を届けていくことを、著者らは目指しています。

本論文では、ABSLのプログラムを組み立てる具体的なステップが示されています。

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このステップを踏んで著者らが実際に組み立てたプログラムも、本論文では紹介されています。その名も、「未来の科学者集まれー森の神秘を科学するー」というプログラムです。

このプログラムでは、「センサー」をテーマに選定し、アナログとテクノロジー、人と動物と植物、過去と今と未来といった視点を行き来しながら、教科内容に降りていく活動を、2日間かけてじっくり行いました。

論文で紹介されていたプログラムの一部が下の表です。

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福本ほか(2019)より一部抜粋

「センサー」というテーマに沿った問やミッションに、レクチャー・議論・探索活動・観察といった様々な方法で取り組んでいく中で、小学3年生の社会から、中学2年生の理科まで、様々な教科内容に降りていく活動だったことが分かります。

このプログラムを通して、ABSLの2つの可能性が主張されます。

1つ目は、1つのプログラムの中で、活動形態を様々に変えることで概念の抽象と具体を行き来する状態が生じ、知識を活用する力が育まれていく可能性。

2つ目は、時間や教科書といった制約がないことが、子どもたちが「発展的達成型」のゴール設定をして学びに向かうことを可能にする可能性です。

「発展的達成型」のゴール設定とは、なにか学びたいこと、解決したいことがあった時に、それを学び、解決して終わるのではなく、そこからさらに学びたいこと。解決したいことを発見していくような学びの在り方に導くものです。

「目的達成型」のゴール設定が、この対義語になります。

 

未来は予想することができません。変化し続けるこれからの未来を生き抜くためには、自ら学びたいこと、解決したいことを見出し、問を見出し、学び続けていくことが必要です。

ABSLはそんな姿勢を育てていくために、有効な手段だと言えるでしょう。

 

 

 

【論文リンク】

https://www.jcss.gr.jp/meetings/jcss2019/proceedings/pdf/JCSS2019_P2-4.pdf