論文紹介「学習科学の新展開:学びの科学を実践学へ(2014)白水・三宅・益川」①

学習科学の源流BIG3をたどる!

学習科学とは、人が今よりも賢くなるための方法を、実践を通じて解明しようとしてきた学問だ。今までに多くのプロジェクトが立ち上がり、子どもの潜在的な力を引き出すことに成功してきた。

学習科学では、問題を解いて終わりではなく、そこから新しい問題を見出していくような学びの在り方が重視されている。テストや入学試験のような一過性のゴールではなく、よりハイレベルな、本質的な、発展的なゴールへと導くようなゴールを設定すること。「目標達成型」ではなく、「発展的達成型」ゴールを設定することが、子どもたちが自分から進んで学び続け、成長していくことを助けるのだという。

学習科学は、認知科学の領域において1970年代以降じわりじわりと形成され、2000年頃に、1つの研究領域として打ち立てられるに至った。

今回は、学習科学の胎動期に活躍した研究者たちを紹介していこう。

 

アン・ブラウン(Ann Brown):FCLプロジェクト

アン・ブラウンは、文章の読み方を仲間と共に確かめ合いながら獲得していく「相互教授法」や、1つの文章を分担して読んで持ち寄る「ジグソー学習法」など、いくつかの学習方法を組み込んだFCL(Fostering Community of Learners)プロジェクトを1980年代に展開した。

「平原から餌とする動物がいなくなったら、チータは絶滅するか、赤ちゃんのチータはどうなるか」「砂漠や、ある惑星の環境に適応する動物をデザインする」

FCLプロジェクトの中で子どもたちが取り組んだこうした問題は、子どもたち一人一人が自発的に次に学びたいことを発見していくことを意図されたものだった。実際にこのプロジェクトで学んだ子どもたちは、活用できる知識や読み書きの力を身に着けただけでなく、学ぶ技術も身に着けることができたという。

認知科学は「人は思考や問題解決について無限に賢くなることができる」とする科学だ。アン・ブラウンもまた、経験値によって子どもが学年を超えた学習内容を理解することも可能になることを、自身の実践を通じて明らかにしていった。

 

ジョン・ブランスフォード(John Bransford):ジャスパープロジェクト(The Jasper Project)

日常的な問題解決に関心を寄せていたジョン・ブランスフォードは、1984年に「IDEALサイクル」を発表した。現代普及しているPDCAサイクルと近しい方法論であるが、”Identify problems and opportunities”をサイクルの最初に置いているところに、その先見性が現れている。日常的な問題解決は、その問題を自ら発見することから始まっていく。今の私たちは、どれだけそれを行っているだろうか。問題の発見はどこか他人事になってはいないだろうか。

日々の生活の中に、いくらでも賢くなることのできる機会が転がっているのに、それを活用できている人が少ないことを感じていたジョン・ブランスフォードは、学校教育の中にIDEALサイクルを持ち込んだ。そこで立ち上がったのが、ジャスパープロジェクトだった。

ジャスパープロジェクトは、教育困難校の小中学生を対象に、ドラマ仕立てのビデオ教材を多用して、算数・数学の問題解決能力を育成しようとするプロジェクトだ。ジャスパー・ウッドベリーという主人公がドラマの中で様々な困難に直面する。子どもたちは、例えば「傷ついたワシを救うための最短移動経路を求める」といった問題を自分たちで設定し、主人公が直面する困難の解決を目指していく。

ジャスパープロジェクトで学んだ子どもたちは算数・数学の知識を身に着けただけでなく、そうした知識が使えるんだという実感から、学習意欲を高めるに至った。

仲間と協働することで、一言でIDEALサイクルといっても様々な考え方があることに子どもたちが気づいたことも、その成果だった。

 

スカルダマリア&べレイター(Scardamalia & Bereiter):知識構築プロジェクト

作文には二つの型がある。知っていることを書き出す「知識伝達型」と、下記ながら自身の知識を作り変える「知識変容型」だ。子どもたちが「知識変容型」の作文を書けるよう、様々な実践を重ねていたスカルダマリアとベレイターは、知識は話したり書いたりする中でどんどん作り変わっていくものだとする「知識構築」の考え方を学校文化の中に取り込んだ。

この知識構築プロジェクトでは、クラス全体で共有した問題を、シミュレーターや作文モデルを使うことのできるネット上の掲示板に作文しながら解決していく。

シェークスピアの時代に夜に上演されていた劇が月明かりで見えたのか」「中世の城の敵からの防衛方法」といった問題に取り組んだ子供たちは、時に学年を超えたレベルの学びに繋がることもあった。

 

 

【論文リンク】

https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcss/21/2/21_254/_article/-char/ja/